パリ郊外で愛犬Sweetyと暮らす祥子さんから、フランスで体験した素敵なストーリーが届きました。森を駆け回るのが大好きなハスキー×サモエドのミックス犬Sweetyは、遊びたい盛りの2歳。今回はそんなSweetyが2022年の11月にドッグシッターのLucと挑戦したドッグスポーツ、カニクロスについてお届けします。
うちの犬Sweetyは、大好きなペットシッターLucとよく一緒に森を走っている。
Lucはスポーツマンで、バスケットボールやバトミントンなどのクラブ活動、マラソン大会などに参加している。Sweetyもハスキーミックス犬で、イメージ通り身体を動かすことが大好き。そんな相性抜群の二人(一人と一匹)にとって、カニクロスはぴったりのアクティビティだった。
カニクロスは、リードで繋がった犬と人間が一緒に野山や森を駆けるスポーツで、いわば犬と一緒に走るトレイルランニングだ。もともとは犬ぞりを引く犬たちのオフシーズン用のトレーニングとして導入され、近年英国を中心としたヨーロッパで盛り上がりをみせている。フランスでも毎年国内各地で数多くのレースが開催されている。競技に必要なのは犬用ハーネス、伸縮性のあるリード、人間用ハーネスの三つだけだ。
予定を立てて準備するのが苦手なフランス人らしく、レースは事前練習ほとんどなしのぶっつけ本番。二人の挑戦を見守りにParisから南へ160kmほど離れた、Centre-Val de Loire地域の小さな町Lamotte-Beuvronへ向かった。
緊張感漂う大会会場
大会会場の雰囲気は、想像していたものと違った。お互いの犬の名前や年齢を聞きあったりといった、わきあいあいとした犬の飼い主同士の会話は全くない。
飼い主たちはお揃いのクラブチームのユニフォームを着ており、駐車場にはたくさんのキャンピングカーが停まっている。さながらスポーツ選手の遠征のようだ。スタート前には出走する犬たちの、早く走りたい、と吠える声が響く。アスリート然と構える他の参加者(犬)に比べて、市民マラソン大会と同じ気持ちで参加した我々は明らかに浮いていた。
状況を全く理解していないSweetyは、遊んでもらおうと他の犬に近寄っても相手にされないので、手持ち無沙汰に地面をくんくんと嗅いだりしたりしていた。たくさんの犬に興奮しすぎてレースどころではなくなるのでは、と心配していたが、飼い主が思っていたよりもうちの犬はお利口なようだ。
犬よりも落ち着きがなかったのは人間の方。Lucは、
「あの人より自分の方が速そう」
と、年配だったり、ややぽっちゃりした参加者を見かけるたびにそう報告してきた。
いよいよスタート。初めてのレースにSweetyは……??
カニクロスのレースでは5-10kmという比較的短距離のレースが多く、求められるのは力強さとスピードだ。普段の散歩では犬を引っ張ってはいけないと教えられるが、レースではパートナーである人間が犬が走るのを助けなければならない。
参加犬種は中ー大型犬が多い。ハスキーのような持久力のある橇引き犬より、ユーロハウンドやジャーマン・ショートヘアード・ポインターのような犬種が人気があるようだが、ひときわ小さなジャックラッセルも観客から大きな声援が送られていた。
レースは、30秒ごとに二組ずつスタートしてタイムを競う。LucとSweetyのスタート順は全75組のペアのうち74番目。クラブにも所属していないし、大会を主催するFSLC(Fédération des Sports et Loisirs Canins)のライセンス登録もしていないからかもしれない。彼らがスタートする頃には、はじめにスタートしたランナーたちがすでにゴールし始めていた。
ようやく彼らの番が来た。
「Allez(行くよ!), Sweety!」
待ちくたびれたSweetyは、スタートラインでお座りしてしまっていたが、Lucの掛け声と、隣の犬が走り出したのを見て、少し遅れて勢いよく飛び出した。
スタートしてすぐ森の中へ入ってしまうので、二人の姿はすぐに見えなくなってしまう。そのため走っている間のことはほとんど知らない。途中一度水飲み休憩をしたらしい。
Sweetyは、舌を長く垂らして笑顔でゴールに飛び込んできた。タイムは24:25、75組中55位。ちなみに今回のレースの優勝ペアのタイムは、14:40。時速に換算するとおよそ時速20.5キロメートル。犬と人間がきちんとトレーニングすれば、トップレベルのマラソンランナーと同等の走りが可能になるようだ。
犬と一緒にできるスポーツは今回のカニクロス以外にも、cani-VTT(犬とマウンテンバイク)、cani-Pédicycle(犬と専用のキックボード)、cani-rando(犬とハイキング)とたくさんある。なかでもcani-randoは最も簡単に始められる犬とのアクティビティだ。森でも山でも好きなフィールドを走る代わりに歩くだけ。本来、犬が引っ張ってくれて、一人で歩くよりも楽なはずだが、うちの場合は、寄り道に付き合わされて一定のペースで歩けないので、別々に歩いた方が体力的に楽だ。
それでも、私はSweetyと歩く。なぜなら、私は愛犬と一緒に自然の中に出かけ、特別な時間を共有したくて犬を飼い始めたからだ。
(撮影)祥子
札幌生まれ。おてんばなハスキー×サモエドミックス犬のSweetyとパリ郊外で二人暮らし。犬連れでの行動範囲を広げようと、日々毛にまみれながら試行錯誤中。