フランスの河川は日本と違って急流が少なく、広く緩やかに流れます。そのため、パリを象徴するセーヌ川でも上流や下流に行けばカヌーやカヤックができるポイントがたくさんあります。今回祥子さんが愛犬Sweetyと挑戦したのは、セーヌ川の支流・ロワン川でのカヌー。ドッグ・フレンドリーのレンタル会社Kawakさんを利用しました。さて、初めての最上散歩をSweetyは楽しめたのでしょうか?
青く澄んだ水の上をまっすぐと進む一艘の小舟。そして、オールを握る飼い主の傍で大人しく座る犬。
そんな映画のワンシーンのような光景に憧れて、昨年からずっと挑戦したいと思っていたのが犬と一緒のカヌーだ。
Sweetyと一緒で全てが順調にいくわけがない。一人で挑戦してうまくいかなかったら悲しすぎる。
そう思って二の足を踏んでいたところ、Sweetyが森で散々おてんばするところを見て知っている人たちとご一緒できる機会があり、ついに念願のカヌーデビューをしてきた。
Sweety、水泳を習得
Sweetyはハスキーとサモエドのミックス犬だ。雪の中を駆け回るイメージはあるが、ラブラドールのように水に飛び込んで泳ぐイメージはない。水際をバシャバシャと走るのは好きだが、絶対に足の届かないところには行かなかったし、木の枝を湖の遠くへ放り投げても決して我を忘れて取りに行ったりしない意外と慎重派な犬だ。
昨年夏、カヌー挑戦の前に泳ぐ練習をさせたいと思っていたところ、「うちの近くにSweetyが泳ぐ練習するのにちょうどいい場所があるよ」と、Fontainebleau近郊在住の友人から連絡があった。
そこは、天気のいい日にはピクニックや川遊びをする人々で賑わうLoing川沿いの広場だ。
フランス版メルカリのようなフリマアプリ「Vinted」で見つけて購入しておいた中古の犬用ライフジャケットを着せ、5メートルのリードを取り付ける。
溺れるような場所ではないが、浮力があったほうが楽に泳げるだろうという作戦だ。
まずは、Sweetyでも足がつくような浅瀬を一緒に少し歩き回る。ここまでは予想通り全く問題はない。
そして、警戒させないように気をつけながら、ゆっくりと川の真ん中の方へと誘導する。徐々に水が深くなっていき、足が水底に届かなくなっても、リードを軽く引いて進んでいくと、Sweetyもそのまま歩くように足を動かしながらついてくる。
そんな具合で、簡単に犬かきができるようになった。
その後は川や湖で自主練を重ね、Sweetyは今や立派なスイマーだ。
カヌーデビューはお預け?
メンバー集め、犬もOKなレンタルカヌーショップ探し、予約のその全てをKさんがやってくれた。
SMSでやり取りをするなか、最後に「二人で当日までにイメトレしといてください」と言われた。
普段クールなKさん。正直、冗談なのか本気なのかよくわからなかったが、とりあえずSweetyには「カヌー乗るからね、いい子にしてね」と何回か言っておいた。間違いなくわかっていなかったと思うが。
飼い主の道楽に付き合わされ、ある日いきなり知らない場所に連れて行かれ、よくわからないものに乗せられる犬もなかなか大変である。
当日の予報は、曇り時々雨(たしか)。
ただ天候が不安定そうだったため、Kさんが数日前にショップに問い合わせをしたところ、
「どうせ濡れるんだから、嵐予報が出ない限り催行」とのことだった。
日差しが強くなさそうで良かったと思いながら、集合場所のGare de Lyonへ向かう電車の中、Kさんから連絡が入った。
「延期になりました」
私たちが予約したのは、午前中に出発する一日のコースだった。そして、その日は夕方に嵐予報が出たため、一日コースは安全のため中止になったのだ。
突然予定がなくなった六人と一匹。
結局、せっかく集合したので、行く予定だったNemoursの街でも少し歩きましょうということで、予定通り電車に乗ることにした。
このままSweetyのカヌー初挑戦が延期になってしまうのか。
やや落胆しながら電車に揺られていると、機転をきかせたKさんが「半日コースならできるのでは?」とショップに電話してくれ、当初の予定の半分の6キロの川下りをすることになった。
実は、他にもちょっとしたハプニングがあったが、今回は割愛することにする。
とにかく、無事にスタート地点のSouppes-sur-Loingに到着し、いざ出発。
二人と一匹の船旅が始まる
最初の難関は、いかにSweetyをカヌーに乗せるかだ。
嫌なことは絶対にやろうとしない頑固なSweety。餌で釣ってカヌーに誘導しようと、大好きなジャーキーを買っておいた。
まずは先に人間二人(飼い主と道連れのCさん)が乗り込み、ジャーキーをチラつかせて、カヌーへと誘導した。Sweetyは、思惑通りカヌーに乗ってくれたが、ジャーキーだけ食べて、すぐにカヌーから岸に飛び移ってしまった。
その後は警戒して、いくら呼んでもカヌーに乗ろうとしなかったため、最終的に、Kさんに抱えられて乗せられ、逃げられる前に急いで岸から離れた。
Sweetyは、水には怖くて飛び込めないため、岸から離れてしまえばひとまず安心なのだ。かわいそうに。
川は穏やかで、カヌー初心者でもガイドなしで問題ない。
Sweetyは、ずっと落ち着かない様子でウロウロしていたが、カヌーは安定していた。どうやら転覆の心配はなさそうだ。
あいにくの天気かと思われたが、逆に曇り空はカヌーをするにちょうど良かった。
飛び交う青いトンボが幻想的。フランスでは一般的なのだろうか。日本では見たことがない。
飛び込むなよ、飛び込むなよ
雨が少なくて水量が少ないのか、元々なのか。
所々、水が浅く、カヌーを降りなければならない場所があった。また、何ヶ所かちょっとしたアトラクション(小さな段差)もあった。
そして、隙を突いてはカヌーから逃げ出すSweety。
同乗してくれたCさんは、見た目は爽やかだが、Sweetyとの接し方が独特だ。
好いてくれているのは間違いないとは思うが、Sweetyを一人のちょっとめんどくさい人間として接しているように見える。
浅瀬に来るたびに、背後からCさんの
「あ、こいつ、飛び降りようとしてる」
「飛び降りるなよ、飛び降りるなよ」
といった声が聞こえてくる。
後半、日が差してきて気温が上がってきた。
私たちのカヌーはまっすぐ進まない。右に行き過ぎ、左に行き過ぎ、ジグザグと進んでいるため、余計に疲れる。
まっすぐ進まないのは、Sweetyのせいでバランスが悪いから。
こんなに疲れるのは、Sweetyの体重分重いから。
Cさんとそんなことを言っていたが、後から貰った動画を見たところ、私たちの漕ぐリズムが全く合っていなかったので、Sweetyのせいだけではなさそうだ。
結果的に、半日コースでちょうど良かった。
後日談
初カヌーから三週間後。Sweetyは再び川にいた。
飼い主の友人夫婦とその姪っ子ちゃんと一緒に電気ボートに乗るのだ。今度のボートには、Sweetyの座れるスペースも十分にあり、日よけの幌も付いている。
もう川で船は嫌と思われていないか、内心ヒヤヒヤだったが、ボートには素直に乗り込んでくれた。
人力のカヌーとは違って、漕がなくても進む電気ボートの気分は王族だ。
Sweetyは、最初は船の後ろのスペースで風を楽しんでいたが、途中から足元で寝てしまった。
人間は景色や会話を楽しむことができるが、犬にとって穏やかな船旅はただ退屈なだけのようだ。
犬は、必ずしも人間の思い通りの行動をしない。人間だけでカヌーをしたほうが楽に決まっている。
それでも、次は一緒にcani-paddle(犬とSUP)に挑戦したい。
Sweetyには、しばらく飼い主の道楽に付き合ってもらうつもりだ。
札幌生まれ。おてんばなハスキー×サモエドミックス犬のSweetyとパリ郊外で二人暮らし。犬連れでの行動範囲を広げようと、日々毛にまみれながら試行錯誤中。