ブルターニュからモン・サン=ミッシェルへ。海岸沿いのGrand Randonnée、GR34(後編)

Mont-Saint-Michelを目指して出発した旅も、折り返し地点へ。前半の荒々しいブルターニュの海岸線とは打って変わり、牧歌的なノルマンディーの田園風景の中を歩きます。GR34セクションハイキング、後半編です。

DAY3 0ndes – Dol de Bretagne – Saint-Marcan

 朝、トラブルが発生。シャワールームで充電していたカメラのバッテリーがなくなっていた。都心部では、公共スペースで私物を充電して放置することは絶対しないが、キャンプ場ではみんな少ない電源を見つけてスマホやカメラのバッテリーを充電している。

 バッテリーだけ盗む人もいないだろう。管理人に回収されたかのかな、と清掃リストを確認すると5:00に「清掃済み」のサインがある。シャワールームの椅子を使って、施錠された業務用の物置を上から覗いてみたら思ったとおり発見。テーブルの上に置いてある。ストックを使って、ケーブルに引っ掛けて回収を試みたが、テーブルから床に落ちてバッテリーが充電器から外れてしまった。下からストックを使って引き寄せるのも長さが足りなかったので、いったん諦めて朝食をとることにした。

 パン屋が開いていたので、パン・オ・ショコラとクロワッサン、そしてブリオッシュを買って、海岸沿いのベンチを見つけてほおばる。焼きたてのブリオッシュは絶品。チーズを挟んで食べると炊き立てのごはんのように、おかずをなんでも包み込むような懐の深さがある。

朝のキャンプ場

 キャンプ場に戻り、朝日で朝露で濡れたテントを干していたら従業員がやってきたので、声をかけて事情を説明する。鍵を借りて充電器を無事に回収することができた。出発は9:00過ぎと遅くなったが、トラブルも旅の醍醐味だ。どうやって対処して解決するのか考えるのも楽しかったりする。

1kmほど干上がっている湾内
湾内に伸びるトレイル
海岸線とはここで分かれ内陸へ入る

 湾の砂浜横の道をずっと進んでいると、Mont Dolへ南下する交差点に差し掛かる。ここからは小麦やインゲンの広大な畑に挟まれた農道だ。

麦畑に真っ赤なポピーが咲く

 田舎へ行くとよく見かける、農業大国フランスらしい景色だ。空が広く、雲が多い。この広い平野でぽこっと目立つお椀状の盛り上がりがMont Dolだ。数十メートルの山の麓には、ヤギがいて、山頂には風車が回っている。

「私はアナイス。ツノに気をつけて!」
山頂からの眺め

 山を登って景色を眺めてから降りてから、畑の向こうに集落が見えたのでDol de Bretagneへ向かって歩いていたらマーカーを見失った。どうやらGR34では、この村へは立ち寄らないらしい。でもちょうどお昼時だったし、こんな小さな村に立ち寄ることもないと思ったので、休憩に立ち寄ることにした。農道では滑るにように走る自転車のグループが、気持ちよく挨拶してくれた。

平坦な農地で一際目立つMont Dol
曇り空から一転、気持ちのよい青空
Dol de Bretagneの城壁

 村は城壁に囲まれて可愛らしい。ちょうどお堀のあたりが緑地帯になっており、市民に解放されていた。日当たりのよいベンチを見つけて昼食を食べていると、若い猫が餌を求めて近寄ってきた。近くに中学校があるらしく、子供たちがわらわらと公園や城壁にやってきて賑やかになる。その中のひと組のカップルはお昼ご飯を食べたのか食べていないのか、人目を憚らずっとくっついていた。ご飯を食べながら、若者たちの青春ドラマを見せてもらい、懐かしいような羨ましいような気分になる。ご飯を食べ終わるとベンチに横になって暖かい日差しの中で一眠り。川や湖での水浴びと同じくらい、この昼寝の時間が好きだ。この贅沢な数十分のために歩いていると言っても過言ではない。

牧草地のトレイル。雨雲が近づいている。

 トレイルは穀倉地帯から牧草地に変わり、水路の脇のトレイルを長い時間歩いた。木の根が3mほどの深さの土手に穴を作っており、そこには水鳥やヌートリアが住んでいた。広い牧草地では牛がのんびりと草を食んでいる。牧草地体を抜けると「ハイカーへ」というメッセージが添えられたベンチが。ありがたい。

庭先に置かれたハイカー用のベンチ

 Saint-Broladreという小さな村を通り抜けると、森のトレイルへ。今日歩いたのは開けた海岸沿いとだだっぴろい農地だったので、森の中が新鮮だ。小さな川が流れていて気持ちが良い。

Riskopp川沿いのトレイル

 キャンプ場Balcon de la Baie du Mont Saint Michelは、その名のとおり、モン・サン・ミッシェル湾を見渡すベランダのようだった。日はまだ高く、早く到着したキャンパーが夕方の日差しの下で寛いでいた。私も受付で地ビールを買って、景色を眺めながら夕食をとった。

田園と海、空のグラデーションが美しい

DAY4 Saint-Marcan – Mont Saint-Michel

 昨日から農地の多いトレイルだった。風が強く、稲科の植物が多いせいで鼻水が止まらない。トレイルは海岸沿いなのだが、海から1kmほどが草地になっており、羊の放牧が行われている。Mont Saint Michelでは、羊肉が名物と聞いたがきっとここで育ったものだろう。確かに味付けをしなくても、塩気の強そうな草を食べている。

 畑では「ウサギの穴に注意」という標識がたくさんあった。トレイルに穴を開けてしまい、落とし穴のようになっているのだ。二匹のうさぎが耳をピンと立てて、畑を駆け回っているのを見た。農道ではたくさんのハイカーとすれ違った。Mont-Saint-Michelから近くの村まで歩くのだろう。Mont-Saint-Michelに向かう人は私の他にはいなかった。

畑の間が並木道になっている
仲間を見つけて駆け回っていた

 今日は朝からずっとMont-Saint-Michelが見えていた。でも、なかなか近づいてこない。風を遮るものがなにもなく、距離は10数キロと短いが、かなり疲れる道だった。農地を歩ききると、観光地らしくなってきた。これまで歩いてきたトレイルとは随分雰囲気が違う。外国人も多く、日本語も聞こえてきた。

島へ向かう遊歩道

 Couesnonの川にかかる橋の上で写真撮影を済ませて、無事にGR34セクションハイキングを終了する。目星をつけていたキャンプサイトには、ホテルが併設されている近代的な施設だ。受付で「電気は必要でしょうか?」と聞かれる。ふだんのキャンプ場だと「洗面台のを勝手に使って」となるのだが、さすが世界的な観光地「盗難のリスクがあるのでおすすめしません」ということだった。

村の中心。レストラン、ホテル、なんでもある。

 テントの設営を済ませてから、Mont-Saint-Michelまで歩く。到着してしまえばあっけない。ここに着くまでのブルターニュの荒々しい海岸線、Cancalの牡蠣市場、広い牧草地、誰もいない、森の脇の牧草地での昼寝。そうした体験に比べて、ここは圧倒的な“観光地”。私も周りの観光客に混じって、トレイルから街の暮らしに帰っていった。

フランスを中心にヨーロッパでのハイキング、トレイルランニングなどの外遊びにまつわる記事を書いています。アルプスやピレネーも好きですが、北欧や東欧の森に憧れています。