ブルターニュからモン・サン=ミッシェルへ。海岸沿いのGrand Randonnée、GR34(前編)

渡仏して4年になるが、Mont Saint-Michelに行ったことがなかった。決して、「そんな有名な観光地行くものか」とツウぶっていたわけではない。単純に行くタイミングがなかったのだ。観光名所はそれだけの魅力があるからこそ、名所だと思っている。祝日を使って5日の連休を作ることができた5月中旬、地図を見ながら歩くコースを探していた時、モン・サンミッシェルが候補地として浮かんだ。パリからそう遠くもないし、海岸沿いにGR34が走っていた。モン・サンミッシェルとNanteの西の村Saint-Nazaireを結ぶ2000kmに及ぶロングトレイルだ。ブルターニュやノルマンディーの海岸は歩いたことがなかったし、Mont-Sanit-Michelへ行くいい機会だと思い、ここに決めた。Saint-MaloからMont Saint-Michelまで約86kmを移動を含めて4日間で歩く旅程とした。

DAY1 Saint-Malo – La Marette

城塞都市Saint-Maloへ入る前の橋

 Saint-Maloは曇天だった。分厚い雨雲が空を覆い、少し空をつつくだけで、雨粒が落ちてきそうだ。そもそもブルターニュやノルマンディーの天気に期待をしていない。これがこの地域のデフォルトなのだ。

曇天の空とブルターニュの海

 駅から中心地へ向かい、閉会式の陸橋を渡る。ちょうどお昼時だったこともあり、城壁で囲まれた街には観光客に賑わっていた。街を少し歩いてから海岸へ。砂浜に無数の杭が打ち込まれ、独特な景観になっている。すぐ先にGrand-Bé、Petit-Béという二つの要塞島がある。空は鉛のようにくすんでいるが、海は乳緑色とでもいう色をしている。海水浴をするほど暖かくはなかったが、砂浜でピクニックや散歩をする人たちがいた。夏になればが賑わうのだろう。

 はじめは磯の香りを味わいながら、砂浜を歩いていた。写真を撮って雰囲気を味わったら、舗装された歩道へ上がった。これから距離を歩くのに砂浜だとスピードが出せない。ストックを取り出してリズムよく歩き出す。

おなじみのGRマークが出てきた

 海岸から住宅街に入ったタイミングで、一台の車に呼び止められた。英語を話す白人のご夫婦だった。

「あの、もしかして以前お会いしませんでしたか?」

 ブルターニュに知り合いはいないと思う、と伝えると、私がぶら下げているカメラを見て知人のベネズエラ人フォトグラファーだと思ったらしい。旅先で同じようなことはよくあるが、私の顔は国籍不明、よく言えばグローバル基準のようだ。

砂浜続きの海岸から荒々しい岸壁へ

 Saint-Maloのビーチはいかにも観光地、といった趣きだったが、5kmほど歩くと街の規模も小さくなり、海岸は荒々しい岩礁になる。道も舗装路からトレイルに変わる。この道は気持ちがいい。ブルターニュの潮風に撫でられながら、広い海と空に抱かれて歩くことができる。緑地帯には要塞だったことを物語る建物や砲台が残っている。海と岸壁の美しい景色を見ながら、この海の向こうから敵意を持った船が近づいてくるのが見えたらどれほど恐ろしいか想像した。

海岸沿いの岩礁の植生
湾をずっと歩いてきたのがわかる

 岬を回りRothéneufまで来ると、景色はまた広い砂浜に変わる。船が砂浜に取り残されている。潮の満ち引きが激しいのだろうか。ほとんど海岸沿いの道なので、終始似たような景色になるのかと思っていたが、岸壁の表情や干からびた不思議な浜。同じ海岸沿いでも表情を変えてくれるので、歩いていて景色に飽きることはなかった。

季節によっては水が増えるのだろうか

 初日はCancaleまで行く予定だったがこの日は、La Maretteという村にキャンプ場を見つけて、ここで終えることにした。日はまだ高かったが、17:00頃に道を間違えるなど疲労が見えたからだ。到着は18:00。これくらいだと明るいうちにテントを張って夕食を済ますことができる。18:30に閉まってしまう売店で食料の調達もできた。ビールを一杯注文をして、ペタンクをして遊んでいるお年寄りを眺めながら、持ってきたチーズや缶詰をパンと一緒に食べた。明日の予報は雨。憂鬱だが、1日降り続くことはないだろう。初日の歩行距離20kmだった。

初日の宿は三つ星のキャンプ場

DAY2 La Marette – Cancal – Ondes

 明け方、鳥たちの騒がしい鳴き声で目が覚めた。テントを打つ雨の音に、寝袋から這い出るのが億劫になる。iphoneで、予報を見ると7:00以降には雨が弱くなるようだ。昨日買ったパンをテントでかじってから着替えを済ませて外へ出た。思ったよりも雨は弱い。持ち物が濡れないように、東家へ荷物を運んで荷造りする。東家の屋根には、ツバメの家族が巣を作っていた。

  キャンプ場を出たのは8時ごろ。道路や雑木林を歩いたが、雨が嬉しいのだろか。カタツムリが大量に這っていた。「フランス人はこいつらを捕まえて食べるのかな」なんて考えながら踏まないように気をつけて歩く。

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 荒波の立つゴツゴツした海岸線が続いた。雨がぱらぱら降っていたが、入江で一人の女性が海水浴をしていた。

 小雨の中でも海水浴。ブルターニュ人だろうか

 半島の突端Pointe de Grouinには灯台が立っていて、観光スポットとして人気のようだ。外国人や小学生の遠足のような団体など、これまでの静かなトレイルと打ってかわり人が多い。軍艦島のような手前のÎle-de Landesの先がMont-SaintMichel。天気がよいと肉眼でも見えるようだ。

Pointe de GrouinからMont-Saint Michel方面を望む

 岬を越えて入江のCancaleに近づくにつれて日が差して暖かくなり、海の表情も穏やかに変わる。潮の流れのせいか岬を境に天気も回復。浜辺を望むレストランを見つけたので、昼食をとった。

晴れ間も覗いたCancaleの海
昼食をとったBasse Cancaleのレストラン

 Cancaleまではさらに小一時間。堤防沿いに牡蠣小屋がずらりと軒を連ねていた。お昼ご飯を食べていたのでCancaleは通り過ぎる予定だったが、これは食べなければ。1ダースで12€。白ワインと一緒にぺろりと食べる。相席になったご夫婦と少し話をした。なんでも昨日旦那さんがノルディックウォーキングで100kmを歩いたそうだ。ランニングでの100kmの経験はあるが、競技でウォーキングは時間もかかるし、違った大変さがありそうだ。牡蠣の殻は堤防の隅に山積みになっていた。殻に残っている貝柱を目当てに、カモメが群がっている。

牡蠣小屋はどこも値段が変わらなかったはず

 賑やかなCancalを過ぎると、湾内沿ってOndesという小さな村まで進んだ。大きな国道沿いに牡蠣の養殖場が建っていた。なんと牡蠣の自販機も。時間が遅かったが昼間はさぞ賑やかなことだろう。

開いていれば中も見てみたかった

 ここに公共のキャンプ場があったはずだが、この時期は閉まっていた。幸いもう一つキャンプ場があったので、そちらに向かいここで今日の行程を終えることにする。弱い雨が降る中テントを張り、荷物を下ろしてから大通り沿いのガレット屋で食事をとる。美味かったがサラダに小さなナメクジがついていた。食べ終わったお皿と一緒に、ナメクジはキッチンに下げられていった。二日目の移動距離は32Km。

潮の引いた海岸線

フランスを中心にヨーロッパでのハイキング、トレイルランニングなどの外遊びにまつわる記事を書いています。アルプスやピレネーも好きですが、北欧や東欧の森に憧れています。

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