コルシカ島縦断。GR20ソロハイク(前編)

ヨーロッパのロングトレイルの中で、最も難しいと言われるGR20。累積獲得標高が13000mにもおよぶ険しい山岳地帯を180km歩くというタフなコースがその理由です。難しいと同時に最も美しいともいわれ、荒々しい山々と美しい森林帯、透き通る河川、そして高原の牧歌的な風景を併せ待つ独特な自然の中を歩くことができます。コース上に山小屋も充実しており、しっかり準備すれば十分挑戦できるロングトレイルです。この記事は2022年夏に歩いた、Conca-Celenzanaの北上ルートでのソロハイク11日間の旅を前編、中編、後編の3部に分けてお送りします。

DAY 0 Porto-Vecchio (0m)

到着したFigari空港で待ちぼうけ

 シャルル・ド・ゴール空港の中を走ったのは初めてだ。保安検査場で「搭乗便が出発しそうだから」と早いレーンを通してもらい、検査を終えると駆け足で搭乗口を目指した。ファイナルコール直前だ。13:20出発の国内便。十分に余裕を持った電車に乗ったのだが、迷った挙句、カメラ用のフィルムを買いに途中下車したのだ。家の周りのカメラ屋さんはバカンスに入っていて調達できず。空港へ向かう途中、パリ東駅の近くに開いているKodakの店舗を見つけたのだ。

 旅の始まりは慌ただしかった。出発の2日前までアルプスへ友人と旅行をしており、たった1日を挟んでの出発だ。こんな計画になったのは、ちょうど私のフランス滞在許可証の切り替えの時期で、8月の頭にようやく切り替え手続きが完了し、仮の滞在許可証が届いたのだった。この手続きが完了するまで、よもや日本に本帰国となる可能性も残っていたので、確実な計画を立てられずにいた。空港の搭乗口で身分証を見せた時に「え、明後日有効期限が切れるじゃないですか?」と驚かれた。

 こんな調子だから、トレイルまでのアプローチ計画も綿密に立てていなかった。「着けばどうにかなるだろう」ということで、航空券が安かったという理由だけでコルシカ島南部のFigari空港へ飛ぶ便を予約。本来北から南へ下るのが一般的なGR20を逆から歩くことになった。そして到着した空港では、Porto-Veccioに向かうバスを待って1時間ほど足止めを食らうことになる。

一泊したキャンプ場。リゾート地の雰囲気だ

 ようやくやってきたバスに乗り込みPorte-Veccioに降りた。トレイルの玄関口Concaまで向かうバスはもう出ていなかった。仕方なくアプローチするのは翌日にしてキャンプ場で一泊することに。道路に沿って歩いていると、魚屋の前で「こんにちわ」と日本語で声をかけられた。Versailleにお住まいというご夫婦がバカンスでこの街に滞在していたのだ。
 彼らは買い物を済ませた後、親切にも車でキャンプ場まで送ってくれた。コルシカ島で初めて出会ったのが日本人のご夫妻とは不思議だ。旅の計画を話すと心配してくれて「途中で経過を教えてください」と言われたので連絡先を交換して別れた。

夕食の買い出しを終えてキャンプ場へ戻る

 キャンプ場は混んでいた。水着姿のバカンス客とハイカーが入り混じっている。平坦が少なく、どなたかと隣り合うスペースしか見つからない。若いカップル(10代に見えた)の横にスペースを見つけて、テントを張った。砂地でペグがうまく刺さらない。地面にアリの巣があり黒黒としたアリの隊列が食べ物を探していた。あまり快適とはいえないキャンプ場だ。
 テントの設営を終えたら食事を買いにスーパーへ。保存のきく島のサラミとチーズを買う。落ち着いて食べる場所もなかったのでテントで簡単に済ます。明日に備えて早く眠ろうと思ったが、賑やかな音楽が聞こえているし、隣のカップルの痴話喧嘩が始まったところで、眠ることを諦めてキャンプ場併設のバーでビールを飲みに出かけた。ガイドマップを見て明日からの行程を予習していると、ビールの酔いも手伝ってようやくコルシカ島に着いたことを実感したのだった。

Day1 Conca(252m) – Refuge d’I Paliri(1055m)

 6:00に目が覚める。テントを片付けていると隣の彼氏が起きてきて「昨日は煩くしてすみませんでした」と謝ってきた。昨晩の痴話喧嘩はキャンプ場中に響きわたっていた。エアーマットを口で膨らませる段取りの悪さや、スマホの充電器が見つからないなどで、彼女が「キャンプなんて来るんじゃなかった! もう絶対やらない!」という事態に。そんな彼女に彼もキレており、最終的に彼女がテントを出て行ってしまった。しっかり丸見えのテントから彼女がちゃんと戻ってきたことは確認できたが、その後の二人が心配だ。キャンプやアウトドアに慣れていない女の子を誘う時は、男側が最大限フォローしてあげないと、2回目のチャンスはきっとやってこないと思う。

朝のPorte-Veccioの海岸

 Sainte-Lucie de Porte-Veccioという隣の村までバスで移動した。スタート地点のConcaまでの移動手段を調べてみたものの、有力な情報が見つからない。また長時間待つのは嫌だったので、歩いて向かうことにした。道の途中でハイカーを載せたバスが降りていった。到着地点の小屋からSaint-Lucie de Porte-Veccioまでシャトルバスが出ているようだった。

GR20のゴール。約180km歩いてきたハイカーを称える言葉が綴られている

 道路沿いを約6km、1時間半登り続けると山間の集落Concaに着いた。お墓があり教会がある。郵便局はあるが、ATMはない。GR20の山小屋は現金しか受け付けないところがほとんどなので、ある程度の現金は街で準備する必要がある。多くのハイカーにとって、このConcaがゴールだ。旅を終えたハイカーが1組到着していた。充実感というか晴れやかな顔をしている。私が別れ道で迷っていると犬を散歩しているおじさんが「あっちだよ」と教えてくれた。村の住人にとってもGR20は身近な存在なのだろう。

早速岩場の多いトレイルだ

 トレイルはすぐにアップダウンのあるガレ場になる。マルセイユのカランク国立公園に似た景色だ。この夏はヨーロッパ各地で乾燥状態で、山火事が相次いで発生していた。コルシカ島も例外ではなく非常に暑く乾燥していた。すれ違うハイカーには上半身裸でバックパックを背負っている人も見かけた。初日から1000m近く標高を上げる区間でつまりは登りばかりだ。2ℓ持っていた水はすぐに飲んでしまった。途中で本来なら湧水が出ている泉で水を補給しようと思ったが、この猛暑ですっかり涸れていた。

I Paliri小屋周辺の山々

 I Paliri小屋に近づくと、圧巻の岩肌の山並みのAiguilles de Bavellaが目の前に聳える。針を意味するAiguillesの名の通り、空にむかって突き上がる急峻な峰が連なる。小屋は景色が開けた尾根の上にあった。少し下ったところにある小屋で冷たいシャワーを浴びてここで洗濯も済ませる。やっと一休みだ。スタッフやハイカーのリラックスした雰囲気が心地よい。ビールを頼み、サラミとチーズ、サラダの缶詰で食事を済ませた。

コルシカ島の地ビールPietraは軽めのラガー

 到着した時には景色が望めたが、夕方から急に暗い雲が山を覆い雨が降らせた。テントを打つ雨と遠くで鳴る雷の音を聞きながら眠りについた。

夕方霧に包まれるテント場

Day 2 Refuge d’I Paliri (1055m)- Refuge d’Asinau (1536m) – I Pedinieddi (1623m)

 ガサゴソとテントを片付ける音で目覚める。山小屋の朝は早い。夜明け前から撤収が始まり、支度を済ませて日が登る前に出発する。日本の山と同様、コルシカ島の天気はこの季節午後になると不安定になり夕立が発生しやすい。早めの行動が正解だ。彼らに少し遅れて明るくなり始める6:00頃に寝袋から出て出発の準備を始めて小屋を出発した。

朝になると雨雲が消え山肌が目前に

 トレイルは岩場のトレイルを歩いてFoce Finosaの山頂を越えると山腹の樹林帯に入った。トレイルから車が入れる広い道に出る。下り坂で折り畳み式のデカトロンのテントを持ったハイカーに追い抜かれた。彼はポールを使わずにまるでヤギのように軽々と斜面を降りていく。

綺麗な沢が流れる樹林帯

 宿泊施設Auberge du Col de Bavella目前で雨は土砂降りに。雨用の装備を取り出している彼に追いつく特に軽く挨拶をすた。彼は肩をすくめて「困ったね」という仕草をした。この状況で歩くのは危ないと思ったので宿泊施設のカフェに入りコーヒーを飲んで雨が弱まるのを待つ。彼はそのまま進んでしまった。宿には荷物が届く日だったようで、かわいそうに宿のスタッフと配達員がずぶ濡れで荷物を運び込んでいた。30分ほど経って雨が弱まったところで、ピークは過ぎたと判断し外へ出る。

道路上を流れる濁流
雲に覆われたAiguilles de Bavella

 Aiguilles de Bavellaを望むビュースポットのはずだったが、マリア像に旅の安全を祈り進むことを優先する。下りの森の中でとても歩きやすい。先の豪雨のせいで森は瑞々しさを取り戻していた。崖からは水が流れ、水溜りにサンショウウオのような両生類が泳いでいた。トレイルはAiguilles de Bavellaの裾を巻くように伸び、反対側のAlcudina山へ至る。

とても歩きやすい森の中。沢が流れる

 Asinau小屋には14:30頃に着いた。小屋でコーラと食事を調達して一休みしてさらに進むことにする。登り始めてから、朝、樹林帯で抜かされたハイカーが休んでいるのに気づいた。彼に手を振り、「俺は進むぜ」と身振りで伝えた。勢いのまま登り始めたが、急斜面のAlcudina山越えには参った。GR20に挑戦するまで、GRのルートは山頂まで登るいわゆる登山は少なく、山頂を迂回する優しいルートが多いと思っていた。しかし、そういえばガイドブックにはしっかり「コルシカ島の山々縦断」と書かれている。判断を誤ったかと思ったが、天気もよく日はまだ高い。進める時に進んでおきたい。

Asinau小屋からの急登。ポールをしまい這うように登る

 山頂付近で彼が追いついてきた。「今日はあそこで泊まるのかと思ったよ」と言うと彼は「船のチケットをとっているから8日で歩き切るんだ」と強い南仏訛りで言った。聞くと昨晩からConcaから歩き始めたそうだ。 2025mのAlcudina山の頂上からはMatalza小屋を経由する通常ルートの他に、若干ショートカットできるバリアントルートがあった。彼がバリアントルートへ行くというので、私も同じルートで進むことにした。雲が上がってきて天気が崩れそうだったし、一人で歩くことが心細かったからだ。Alcudina山の稜線を伝って降りていく。食事場なのかヤギと牛のふんが足の踏み場もないくらいたくさん落ちていた。

Alcudina山の頂、尾根。

  ヤギや牛が踏み歩いているからか、トレイルが錯綜していて正しい道がわかりにくい。時々、どこのルートをとるか迷ったが、下りに入ってからは見晴らしがよく稜線を気持ちよく歩けた。心配していた雲も山を超えてこなかった。

 稜線から標高を下げて水場で休憩をしているときに彼と少し話した。「そんなに早いのはトレランでもやっているのか?」と訊ねた。以前はやっていたそうだが、怪我をして以来走っていないそうだ。その怪我を経験してから本を読んで食生活を変えたら具合がよくなったとか。肉や砂糖、炭水化物を減らして有機農法の野菜中心にしたそうだ。怪我も減ったがその分、長く休憩をとる必要があるそうでAsinau小屋では2時間休んでいた。

山頂の牛で砂を掘る牛

 この日彼は疲れるまで歩いて途中でビバークすると言っていた。私はそこまで急ぐ予定ではなかったので、I Pedinieddiの交差点で止まることにした。そこは元々小屋があった場所で、先にビバークしているカップルがいて一夜を越すには最適だと思った。まだ2日目で適当な場所でビバークする勇気もなかったのも本音だ。彼は私よりも早いので、きっと会うことはないと思いながらもお互い「またトレイルで」と言って別れた。

 先に幕営していた2人はUKから来たOlivierとAmber。水場やテントを張る場所など親切に教えてくれた。小川への道は残っていたが、鋭く硬い棘のある植物が生い茂っていて刺さると非常に痛い。小川で水浴びをしてから、岩に登り夕日を眺めながら食事を摂った。朝起きると、彼らは既に出発していた。

ビバークしたI Pedinieddiの夕方

DAY3 I Pedinieddi (1623m) – Refuge d’Usicolu (1727m) – Refuge de Prati(1829m)

 日が沈む前に Refuge de Pratiに到着した時、昼食をとったUsicolu小屋で話した若いハイカーに追いつかれた。驚くほどの軽装で、デイハイキング用のリュックで歩いていた。嬉しいサプライズに再会と無事を讃えあった。それほどこの日の山行は過酷だった。

豊かなコルシカ島の自然の多様性

  静かな朝だった。バリアントルートから正規ルートに合流するBocca di Agnoneまで、なだらかな高原を霧の中を歩いていた。聞こえるのは自分の足音と雨の音だけで、物語だったら魔女が出てきても不思議ではない。岩陰から草間彌生が描いた水玉を身につけたようなコルシカサンショウウオがのっそり登場し、美しい馬が優雅に草を喰む池塘を歩いた。馬や山羊がもの珍しそうに私を見つめていると思えば、野生のヤギ・ムフロンも遠くから私を見ていた。

 もともと雨や霧の中を歩くのは嫌いではない。景色が望めないのは残念ではあるが、ふだん人が見ない景色を見ることができるのはちょっと得していると考えている。ただし、それは森に関してだ。足場が悪い怪我や遭難のリスクがある山では雨や霧はできれば避けたい。

山登りが始まる前の平和な朝

 Bocca di AgnoneからUsicolu小屋に至るルートは約2000m前後の稜線だった。霧、雨、風の中、連なる尾根を何度も西へ東へ縫うように跨いだ。視界が悪いせいでマークを見失うこともしばしば。山頂付近は岩場のみで足元が安定しない。底も見えず滑落の不安がよぎる。ストックとカメラをバッグパックにしまい、手を使って岩をよじ登る。楽しいというよりも怖かった。ハイカーとすれ違うたびに小屋までの距離や時間を確認し、「お互い気をつけて」と声を掛け合った。こういった極限状態では暗黙の了解でお互いが協力体制になるようだ。

霧の中何度も山頂を越えたので、方向感覚がなくなった

 Usicolu小屋に到着する直前、雨がしのげる岩の下で単独で来たことを後悔していた。体力というより精神的な疲労が溜まっていた。行動食をかじりながら休んでいると、前方から歩いてきた二人のハイカーが歩いてきて「小屋はあと数百mで小屋だよ」という声をかけてくれた。彼らの言葉に元気をもらい、10分ほど歩いたところで小屋に着いた。

Usicolu小屋の馬とロバ

 小屋では食堂を使わせてもらい、温かいコーヒーをいただいた。居心地が良さそうな小屋だった。ここで泊まることも頭がよぎったが、時刻はまだお昼くらい。日没までまだ行動できる。ガイドマップには次の小屋まで6時間半、距離にして11kmほどとある。食堂にいたハイカーに次のステップについて話を聞くと、冒頭のリュックの彼が入ってきて「俺は進むよ」という。昼食を取って体力と気力が回復していたので、私も次のステップへ進むことにした。

晴れ間が覗くと稜線から素晴らしい眺望が

 Prati小屋までも稜線の険しい道が続く。1900m代の稜線を伝ってこの区間で最も標高の高いPunta de la Capella(2041m)まで登る。景色もよく、Punta di a Capellaに至るまでは気持ちも前向きだった。

険しい岩場が続き体力を奪う

 しかし好天は長くは続かない。濃い霧が再び視界を奪う。本来そう難しいルートではないはずだ。きっとこの区間は見どころの一つでさえあったはず。ところが目の前に見えるのは白い靄と無機質な岩や砂利。視界の悪さから不安が大きく膨らむ。同じ方向に歩くハイカーも少なく、午後は人とすれ違うことも少ない。そんな心細さが疲労を募らせる。

 霧の中でカウベルが聞こえてきた時は幻聴かと思ったが、突如目の前に牛やヤギが現れて驚いた。彼らは草を求めて悠然としている。牛はあの巨体でも草を求めてこの稜線を登ってくる。山羊は丈夫な蹄で岩場をもろともせずに軽々と移動する。きっとこのくらいの雨や霧はここでは日常茶飯事なのだろう。彼らの丈夫な体が羨ましかった。家畜が放牧されているということは小屋は近いはずだ、と自分に言い聞かせる。

山頂の動物たち

 クレーターのようにえぐれた谷の先に小屋が見えた。あぁやっと休めると安心していたらリュックを背負った彼に追いつかれた。「本当に無事についてよかったな」。これまで話し相手がいなかった分、お互い興奮してこの半日の冒険について語った。彼は以前もGR20を歩いたことがあるそうで、宿泊を小屋のレンタルテントにすることで荷物を減らしていた。今回は7日ほどで歩きたいと言っていた。

小屋に続く稜線

 テントを貼り終えて洗濯物を洗って干した頃には、海へ沈む美しい日没が望めた。小屋でビールと食べ物を買おうとしたところ、スタッフがテーブルで夕食をとっており「今夕食食べてくるから、ちょっと待ってな」とお預けをくらってしまった。疲れ果てていたが、食堂で他のハイカーが食事をとっている中、ぼけっと待った。しばらくしてスタッフが「さて、食事終わったよ。何が欲しい?」と声をかけてくれて、コーラで晩酌をしたところでやっと長い1日が終わった。テントに戻る頃には日が暮れて、周りのテントから聞こえる話し声もやがて聞こえなくなった。

山に夜の帳が下りる

DAY 4 Refuge de Prati – Bocca di Verde – Vizzavova(920m)

水平線が燃えるように赤くなる

 空が赤らむ時間にテントを出て身支度を始める。乾ききっていないTシャツや靴下はバックパックにくくりつけて自然乾燥させる。出発前に小屋でコーヒーを飲む。ふだんは砂糖を入れて飲むのは好きではないが、頭に糖分を送るため甘くして飲む。コーヒーの香りと苦味が1日の始まりを告げる。

 リュックの彼と出発する前に小屋の近くで会った。今日はどこまで歩く? と世間話をしてから彼は先に出発した。

小屋からの稜線

 天気のよい日だった。Prati小屋からしばらく稜線を歩くと15分ほどで、Bocca d’Oruに着く。見晴らしのよい鞍部だ。ここから一気に600mほどの山を降りる。ごつごつしたガレ場だが体は軽快だ。早朝から汗だくで急登を登るハイカーを尻目に坂を下る。樹々が増えてトレイルはやがて林道に入った。林道に入ってからはますます調子に乗って、ほぼ駆け足。途中で先に小屋を出たリュックの彼に追い付いた。とてもゆっくり降っている。大丈夫か、と声をかけると

 「昨日足を痛めた。歩けているからまだ大丈夫だけど、予定通りに歩くのは難しそうだ」と言っていた。心配だったが、それぞれの旅がある。私としてはスピードが出せるところは早く歩いてしまいたい。彼に別れを告げて先を急いだ。

昨日とうって変わって気持ちの良い1日だ

 山を降りきると、Vocca di Verdeという森の中の小屋があった。道路が通っていてテント場もある気持ちの良い小屋だ。出発してまだ1時間と少しだったが、小屋の雰囲気に誘われて休憩を取ることにした。旅の目的は急いでゴールすることではない。コルシカ島の森の中の小屋なんてなかなか来る機会がないだろう。寄り道も楽しまなくては。それにちゃんとした食事はここでは貴重だ。サラミを挟んだサンドウィッチとカフェ・クレームを頼んだ。昨日、大変な想いをしたぶん今日は楽しみたい。木漏れ日の当たるテラス席に荷物を降ろして、朝食を待っている時間も贅沢だ。

水の豊かな山だ 

 緑を意味するVerdeのとおり、小屋からのトレイルは美しい森の中だった。落葉が敷き詰められたふかふかの道は、一歩を踏み出すのが楽しい。GR20ではなく、家族連れでデイハイクに来ている人たちも何人もいた。小川が流れ、渓流の心地よい音が森に響く。しばらく登るとMarmanu川を右岸から左岸へ渡る。あまりに天気がよく、水が気持ちよさそうだったのでここで水浴びをしてリフレッシュした。

ここでも休憩をとる。小屋でつくったチーズを購入できる

 左岸に取り付いてからは1300m代の山の中を歩き、Ghjalgogne小屋に着く。牛が日向ぼっこしている、のどかな小屋だ。小学生くらいの子どもたちが水場で冷たい水を浴びてを歓声をあげている。また少し休憩を、と思ったがここでは、チーズしか売っていなかった。小屋の主人に「コーラもないの?」と聞いたら、「コーラは体に悪いよ!」と返された。普段からたくさん飲むのは、もちろん体に悪いがコーラは耐久スポーツの強い味方。1日の終わりのコーラは、時にビールにさえ匹敵するというのに。

体が痒いのかしきりに体を砂に擦り付けていた

 寄り道や写真を撮りながらのんびり歩いたので、Capanelle小屋に着いた時には14:00近くなっており、昼食のオーダーがストップしていた。他のハイカーがピザやパスタなど美味そうに食べているのを横目にコーラと売店で買った軽食で休憩を取る。

Bergerie d’Alzeta。今は使われていないのか無人だった

 Capanelle小屋からVizzavonaまでは約5時間しかもまた900m近い下りだ。天気も申し分ないので、2ステップ目も今日中に片付けてしまいたい。午前中と同じく気持ちのよい森の中の道が続いたが、山からVizzavonaまで降りる林道は、つづら降りから林道をただただ長く歩く退屈な行程だった。北から南へ下る場合、ここはかなり体力を使う区間になるだろう。

夕方のVizzavonaはややブキミな雰囲気

 薄暗くなってきたところVizzavonaに到着。駅や郵便局もあるが、小さな山間の集落だ。いくつか泊まれる宿やキャンプ場があり、ここを起点に半分だけGR20を歩く人もいる。午後の長い下りで疲弊してしまったので、この夜は贅沢にドミトリーで体を休めることにする。シャワーも暖かく、久しぶりに電波が届きwifiも使える。ご飯を食べながら友人に電話をする。到着した日に出会った、日本人のご夫婦にもSMSで近況を報告した。

 4日目で中間地点、悪くないペースで来ている。GR20の旅のスタイルにも慣れてきた。

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